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上越だより (てらこや新聞42号 下西さんのコーナーより)

お国言葉あれこれ

進学、就職、転勤などで、いろいろな土地に住みました。その土地で出会った人と言葉が分かちがたく結びついています。

新卒で、尾鷲の高校に赴任したときのこと。
戻ってきた期末テストを片手に、かわいい女子高生が訴えてきました。
「ごーわいてくる、せんせー、また、赤点かな。そうやりー(ソウデショ)。」
「ごーわいてくる」とは、「はらわたが煮えくり返るほど、腹が立つ」という意味だと思っていました。しかし、尾鷲では「むかつく、もういやだー」ほどの意味で使うらしい。たびたび使ううちに、本来の意味が薄められるのでしょうか。尾鷲という地名を聞くと大粒の雨と「ごーわいてくる」と訴えた女の子が、懐かしく思い出されます。


学生時代に金沢に下宿していました。下宿のおばさんは母と同じ年代の人でした。
「タカちゃん、勉強ばかりして、りくつやねー(リッパダネ)。もうちょっこし、遊びまっし(アソビナサイヨ)。」
お土産を持っていくと、「きのどくなー(アリガトー)。」
卒業する頃には、「タカちゃん、金沢の水で、きれいになったじー(キレイニナッタネ)。」
金沢は私にとって、異文化体験の始まりの土地でした。そして、金沢の言葉は、慣れるに従って、その語彙もイントネーションも、良い響きだと感じるようになりました。金沢弁で語りかけてくれた誇り高き下宿のおばさんは、今どうしているのかな?


上越でよく使う言葉に「ごめんください。」があります。
外出すると、知り合いに会いました。「ごめんください。どちらにおでかけですか。」とあいさつします。別れ際、「では、ごめんください。」「はい、ごめんください。」
友達の家に行きます。玄関で「ごめんください。」と、あいさつをします。
仕事場に顔を出すとき、午前中なら「おはようございます。」ですが、午後になると「ごめんください。」
電話がかかってきました。「もしもし、ごめんください。」「はい、シモニシです。ごめんください。」電話を切るとき、「では、ごめんください。」
英語のhello(ハロー)のように、万能挨拶語として「ごめんください。」が使われます。当初、とまどいましたが、いまは、いつでもどこでも「ごめんください。」の魔力にはまっています。


お国言葉の中には、日頃そうと思わずに使っていて、故郷を離れて初めて、実はローカルな言葉遣いだと気付くことがあります。
「バスがつんどる(混んでいる)。」「机をつる(運ぶ)。」「底にとごる(沈殿する)。」などは、三重から出るまで、方言だと思ってもいませんでした。しかし、県外では使えません。
「とごる」は、私のお気に入りの言葉です。こんな便利な言葉が、どうして他の土地にないのでしょうか。例えば、科学の分野などで「使える」言葉ではないか、などと勝手に思っています。


亡き祖母は、食後「ごちそうさま」の代わりに、舌つづみを打ちながら、「てんぽにおいしかった。」と言っていました。「てんぽに(とても)おいしかった」の言葉になぜか食後の幸せ感が漂っていて、私の好きな言葉です。しかし、ほかの家族はだれも使わない、不思議な言葉でした。


新しい土地に住むとき、違和感や不安感から、その土地を否定的にとらえることがあります。しかし、その土地の言葉を肯定することで、その土地に受け入れられたと感じられることがありました。新しい環境になじむための便法として、その土地の言葉を戯れに使ってみるのはいかがでしょうか。
by terakoya21 | 2008-10-12 22:12 | 上越だより

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