人気ブログランキング |

Bonjour! (てらこや新聞36号 谷先生のコーナーより)

東京見聞録 第三巻 第二章

“We did it!!!”( やった!!!)

幕張メッセを会場に午前10時から始まったバトントワーリング全国大会。出場団体すべての演技が終わり、閉会式はほぼ定刻に始まった。私はプログラムとボールペンを手に結果発表の時を待った。

前章で触れたように、私は自分なりにこの大会を楽しんでいた。その一方、実を言えば、本番終了後のチームには目に涙を浮かべる選手も少なくはなかった。大舞台で演技できた感動、あるいは力を十分に発揮できなかった後悔……チーム全体にあきらめにも似た空気が漂っているのを感じながら、選手たちに涙の理由を尋ねる勇気もかける言葉も出ない。私はそんな自分がもどかしかった。

いざポンポンペップアーツ編成の結果発表が始まると、次々に流れるアナウンスに気を取られ、私は「心の準備」をすっかり忘れていた。残り4チームとなったときふと我に返り、自分のチームがまだ名前を呼ばれていないことに気付いた。その先は、一つ発表されるたびに胸が高鳴り手は小刻みに震えた。2位にも名前は読み上げられなかった。それから数秒間、私の頭の中はフル回転で空回りしていたようだ。「1位になった」ということが理解できず、最後のアナウンスをまるで人ごとのように聞き流していた。初めての、そして期待以上の結果を上手く受け止められないまま、大会は幕を閉じていた。やがて代表の選手たちが戻ってくるとチームには笑顔と涙が溢れ、私にもようやく「素直に嬉しい」という感情がこみ上げた。

私には、「スタッフになってやっと本当に理解できたのではないか」と思うことがいくつかある。

一つは、「結果として表れるのは、本番での本人による演技だけではない」ということだ。言うまでもなく、審査されるのは「本番」であり、本番の舞台に立つのは選手のみだ。しかし、たった一度、たった5分足らずの演技でも、それを一から構成・指導するコーチがいなければ成り立たない。そして、何ヶ月にもわたる練習を見守り応援する家族や関係者の存在は、選手に大きな力を与えてくれる。

そしてもう一つは、「結果として表れるのは、数ヶ月間の演技練習の成果だけではない」ということだ。バトンにはチーム演技・個人演技・ペア演技があり、定期的にそれぞれの大会が催される。コーチは常に先の大会を視野に入れて、選手の強化・指導にあたる。個々の選手の成長はチーム全体の力を底上げし、よりレベルの高い演技を目指すことができる。また、チーム演技で養った体力・技術・表現力・協調性はその後の個人演技に活きてくる。

チーム演技で新しい編成へ方向転換した一年目、私たちにとってすべてが手探り状態だった。二年目には評価基準の変更に悩み、三年目はスタートから全国大会を見据えて挑んだ。この間の地道な積み重ねが、今回の結果を導いたのだと確信している。本番の華やかさとは裏腹に、日々の練習は地味で結果は目に見えにくい。選手だれもが時には長いスランプに陥ったり、自分の希望とは異なる配置や振り付けを担当したりすることもある。だからこそ、選手とコーチには互いを信じ合い、互いを頼り合う関係が生まれ、大切にされるべきなのだろう。現役選手だった頃、それはごく自然のことであり、深く考えなどしなかった。信頼関係は、築くのに時間がかかることも、保っていくのがそう簡単ではないことも、どんな分野にも共通事項だということも、今だからこそはっきりと口にできる。

チーム内の興奮が一段落した頃、ふとホールの一角に目が止まった。そこでは一つの団体が半円に集まってキャプテンの言葉に耳を傾けていた。離れた場所にいた私には、どんな話をしているのか聞こえたわけではない。しかし、彼らが手に入れたばかりの全国グランプリを手放しで喜んでいないことはわかった。「グランプリ候補=出来て当たり前」のプレッシャーを抱え、常に上を目指し続けているのだろう。その姿を目の当たりにして、私は頭を打たれた気がした。そして全国大会に参加できたことを改めて光栄に思った。

私たちのバスは予定より大幅に遅れて幕張を出発した。都心に入る頃にはネオンが街をいっそう鮮やかに彩っていた。東京タワーは毎年のお約束通り火に油を注ぎ、静まり始めていた車内は再び歓喜に包まれた。
by terakoya21 | 2008-03-30 21:40 | Bonjour

英語塾の寺子屋かめいの元気を発信します


by terakoya21
プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る