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しろこく's Page ~ The Power of Japanese ~ (てらこや新聞137号 川戸さんのコーナーより)

「ナビとタオルと消せるペン」
白子国語教室主宰 川戸恵子(しろこく)

前回「戦後の手軽さベスト3」として「ベッドとシャワーとハンバーガー」を挙げた。お茶の師匠の独断と偏見による「日本人を堕落に導いたもの」なのだが,その後生活は更に変化し,新たな「手軽さ」も生まれてきた。

そこにはやはり「堕落」があるのではないだろうか。それは何かと考えて,私は,自分を堕落させた(させようとしている)ものとして,「車やスマートフォンについている道案内機能」「“エアタオル”または“ペーパータオル”なるもの」「消せるボールペン」の三つを挙げようと思う。

かつて,知らない土地やお店に行く時には,前もって地図で調べておくのが常であった。不案内な土地へ向かう時には印刷したものを貼りつなげておくこともした。車には地図(もちろん紙の)を備えておく。急なことで下調べができなかった場合でも,お天気さえ良ければ太陽の位置で取り敢えず方角だけは見当をつけ,後は道行く人に尋ねるという荒業で乗り切ってきた。しかし,今は違う。スマートフォンを使えばたどり着くことができる(それでも時々道に迷うこともあるが)。事前に道順を確かめておくことがずいぶん減った。準備しておかなくても何とかなると思っているのである。

また最近は,外出時ハンカチを忘れたことに気がついて何やら落ち着かない気分になるということが少なくなった。というのも,外出先で入ったお店やコンビニ,道の駅などのトイレには大抵“エアタオル”や“ペーパータオル”と名付けられた,ハンカチの代わりになる物が備え付けられているからである。最近は出かける前の確認は,お財布,携帯電話,お化粧ポーチとなって,ハンカチやティッシュの確認順位が以前よりも下がってしまっている。恥ずかしいことに,身支度を整えることがなおざりのまま出かけている気がする。

そして「消せる」ペン。(「フ○○○○○」がその筆記具の総称かと思っていたが,某メーカーのシリーズ名らしいので「消せる」としておく)。これまでボールペンで書くときは「失敗できない」という意識がどこかに働いていたように思う。ペンは,もちろん走り書きの際にも使うが,手帳に書き込む際や記録を取る時に使うことが多い。そこで消せないとなると,やや慎重になる。間違えて修正テープ(←これも修正インクに比べると便利な品ではないか?)のお世話になるのは極力避けたいので,頭の中を回転させ,まとめながら書いている(と思う)。しかし,「消せる」という便利さを手に入れてしまうと,以前より慎重さがなくなった。あまりよく考えることなく書いて,間違えたことに気が付くと消している。消すことを結構面白がっている自分にハタと気づき赤面する。

このように考えてみると,手軽さ・便利さは楽な反面,危うさをはらんでいると思う。前もって準備しておく,つまり自分の先の行動について段取りをつけるという,根本的な考える力を奪っているような気がするからだ。確かに,地図にしてもハンカチにしてもペンにしても,日常の些細なことだ。こうして書くほどのことがあるとは思えない,というむきもあろう。ナビで調べれば聞いて人様を煩わせることもなし,その都度温風に手をさらしたり新しい紙で拭いたりするほうが,ハンカチより清潔かもしれない。修正テープの上からペン先が引っ掛かって情けない気分になったり,間違った箇所をペンで黒く塗りつぶして見苦しいと思ったりすることもない。便利で快適,大いに歓迎すべきことかもしれない。

しかし,小さなことは大きなことにつながる。準備をして次の行動に臨む習慣のあるのと,行き当たりばったりでなんとかしてしまうのとでは,何かが違う気がする。持っている力を使い切っていないというもったいなさや,鍛えられるはずのところを易きに流れ,それでよしとてしまう気持ちの脆弱さを覚えると言ったら大げさだろうか。

それでもやはり,前日に地図で道順を調べ,出かける前にはハンカチを確認し,頭でまとめ上げてサラサラとペンを走らせる・・・そんなことを面倒がらずに当たり前にできることもまた,豊かさだとは言えるのではないかと自戒する今日この頃である。
by terakoya21 | 2016-09-14 10:53 | しろこく's Page

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