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上越だより ~ヨーロッパ編~ (てらこや新聞118号 下西さんのコーナーより)

「あいさつ」

2013年10月から2014年1月中旬までの約100日のヨーロッパ旅行中、5か国10都市を訪れました。各地の有名な建築物を多く訪ね、その風景に感動しましたが、それ以上に、各地で出会った忘れられない人々がいます。風景の中に人情がにじみます。

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チェコの国民的作家で劇作家でもあるカレル・チャペック (1890~1939 ロボットという言葉の生みの親)は、チェコの東ボヘミアで幼少期を過ごし、17歳でプラハに転居。画家である兄のヨゼフの挿絵で多くの作品を残しました。11月28日、プラハ10区ヴィノフラディにあるカレル・チャペックが住んでいた住宅を訪ねました。

その一帯は「チャペック兄弟通り」と名づけられていました。ツタの絡まった3階建ての住宅は、「チャペック兄弟邸」を示すプレートが掲げられていました。ちょうど、若い母親と幼い女児の二人がその家に(たぶん)帰ってきました。この家に住んでいるようです。声をかけましたが、迷惑そうに(たぶん)、無視されました。「チャペック兄弟邸」の帰り道、方角を失っていたところに、中学生くらいの少年が二人、通りかかりました。下校中のようです。最寄りのトラムの駅を聞いたところ、案内してくれるとのこと、彼らの後に従いました。近いと言っていたのに、15分ほど歩いて、彼らが住むアパートに到着し、その近くに目指す駅もありました。駅でトラムを待っていますと、件の少年がおやつのバゲットサンドをほおばりながらやってきました。我々が心配で様子を見に来たのでしょうか。鞄を置いて、飛び出してきた様子です。ふたりの少年は、14歳。私の片言の英語と彼らの習いたての英語のレベルが似ていたのか、短い時間でしたが、楽しい語らいができました。「ジェクユ ヴァーム(ありがとう)」といって別れました。

ヨーロッパのEU圏、ユーロ圏を含む26の国々は、シェンゲン協定に加盟していて、チェコもドイツ、オーストリアも圏内です。協定内の国に入るときは入念な審査が行われますが、加盟している国どうしの移動は、国境検査なしで、大変便利でした。プラハから、長距離バスが出ていて、チェコ国内はもちろんですが、シェンゲン協定内の国にも路線が伸びています。ちなみに、スチューデント・エージェンシーの長距離バス、スチューデントバスは、黄色の車体で、運転手2人、車掌1人で運行していました。電車に比べるとちょっと窮屈ではありますが、運賃が格段に安く、飲み物のサービスもあり、ビデオや音楽が楽しめ、無料WiFiサービスもありました。ベルリンにもスチューデントバスに乗って出かけました。1人19ユーロ、約5時間の旅です。最前列の席のチケットを購入して、風景を楽しみました。ビザはありませんが、抜き打ちでパスポートコントロールがあり(パスポートを調べる)、国境の街「ドレスデン」に入ったところで、パトカーがバスを止め、警官がバスの中に入って来るという場面にも遭遇しました。

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11月7日、ベルリンにある「森鴎外記念館」を訪ねました。Sバーン「フリードリッヒ・シュトラーセ駅」からシュプレー川沿いに歩いていくと、アイボリーの壁面に「鷗外」の漢字が、看板代わりに書かれていました。記念館では鴎外の下宿を再現していて、机・本棚・ベッドなどが置かれていました。鴎外のデスマスクも。館で働く日本人の女性が案内をしてくれましたが、館長であるボンデさん(日本語学科の教授)が在館で、今の活動状況を聞くことができました。ここは、ベルリン・フンボルト大学の日本語学科の学術機関にもなっています。   

2012年が鴎外生誕150年、2014年が記念館30周年記念の年ということで、大忙しのようでした。鴎外文学や日本文学についての熱い思いを語ってくださった彼女から、ドイツ人の芯の強さ、〈ドイツ人魂〉のようなものを感じました。「Auf(アウフ) Wiedersehen(ヴィーダーゼーエン).(さようなら)」と言って別れました。

10月21日、ユーロシティ(ヨーロッパ都市間特急 EC)に乗って、ウィーンに行きました。(プラハ~ウィーン間は約5時間、1人指定券込みで45.6ユーロ)電車は6人一部屋のコンパートメントになっていました。指定券を買っていたのですが、日本の鉄道とは違って、列車に指定席車と自由席車の区別はなく、コンパートメントの入口に、  購入済みの指定席の番号と名前が掲げてあるだけでした。

ウィーンは、プラハとは違った魅力のある街でした。音楽の都だけに「ウィーン楽友協会」(ウィーンフィルのニューイヤーコンサートで おなじみ)では、金ぴかのホールにモーツァルトばりのコスチュームの団員がきらびやかなパフォーマンスを見せてくれましたし、「カールス教会」で聴いたヴィヴァルディの「四季」は、自在な迫力のある演奏でした。

ウィーンの街角で、オーバーコートに身を包んだ老婦人を見かけました。杖をつきながらも背筋を伸ばして横断歩道を渡る姿は、なんとも優雅な身のこなしでした。「シェーンブルン宮殿」から抜け出したような振る舞いに、ハプスブルク家の末裔の矜持を見たようでした。心の中で「Guten(グーテン) Tag(ターク).(こんにちは)」

パリでは、「ベルサイユ宮殿」と「ルーブル」には、絶対行こうと思っていました。ベルサイユはパリの郊外で、電車RER(高速郊外鉄道)に乗らなければなりません。12月10日、ベルサイユへ行くため、電車の乗り場 ポルト・クリシーで一緒になった母娘には、ベルサイユ宮殿でもばったり会いました。そして、翌日のルーブル美術館で、大混雑のルーブルでも偶然、再会を果たしました。彼女たちは、南米パラグアイから来た母娘(娘は13歳と8歳)で、夏休みのバカンスで、イタリア・オランダ・イギリスを回っているとか。母親は英語がよくできないのか、13歳の娘がもっぱら英語で会話をして、母親に通訳をしていました。かの国では裕福な階層の人たちかなと想像しながらも、天真爛漫な姿に「Hola(オラ)」「こんにちは」のエール交換をして別れました。

ロンドンの「トラファルガー広場」は、ロンドンの中心地です。ロンドンの政治の中心地国会議事堂、ビッグ ベンや政府のオフィス、ウェストミンスター寺院が立ち並ぶ「ホワイトホール」通り。バッキンガム宮殿に突き当たる「ザ マル」通り。商業地区につながる「チャリング・クロス・ロード」などが交錯する広場です。広場の名前「トラファルガー」そして、広場に立つ「ネルソン記念柱」の名前が示すようにかつての英国の海軍力を留めています。広場の前には、「ナショナル・ギャラリー」「ナショナル・ポートレート・ギャラリー」があり、観光客であふれていました。

1月14日、トラファルガー広場のベンチに、買ったばかりのショールを置き忘れるという「事件」が起きました。すぐに探しに行きましたが、黒い紙袋はありません。この広場の管理事務所のような場所を見つけ、駆け込みました。果たして、ありました。忘れ物として誰かが届けてくれていました。日本と違いヨーロッパで、置き引きに会うことはあっても、落し物が見つかるなんて、と半分あきらめていましたのに。管理事務所の方と一緒に探してくれた中年の夫妻に握手。3人に感謝の言葉「Thank you very much.  I am glad.(ありがとう。うれしいです)」

カレル・チャペックのエッセイに「あいさつ」があります。ナチスドイツの圧力が日増しに強くなっていた時勢、彼が亡くなる直前(1938年)に発表されたこのエッセイは、彼の遺言のように――国境を越えて、人と人の 交流が大切――聞こえてきます。

人は国と民族を、その政治、体制、政府、世論、またはそれについて一般に言われるものと、なんとなく同一視する。しかし、なにかちがうものを、その民族はある程度はっきりと示す。それは決して考え出したり意図したりできないものだ。自分の見たもの、まったく偶然で日常的なものの思い出が、それ自体、心の中に浮かんでくるのだ。(「あいさつ」『カレル・チャペック エッセイ選集1』恒文社 飯島周 編訳)

世界が狭くなっているといわれます。テレビやインターネットで世界の事件が報道されます。また、私のようなおばさん風情でも、ネットで航空券を手に入れ、ホテルを予約して、ヨーロッパ旅行ができるのですから。しかし、狭くなっても互いの理解が深まったかというと、決してそうではありません。チャペックの言葉「一つの民族と他の民族との距離は、おそろしく遠くなっている。」「人は民族間の多くの問題に腹を立てて、何が起こったのか、決して、決して忘れないぞと、みずからに言う。」の「民族」を「国家」に書き換えると、現在にも通じることだと、気づかされます。チャペックが「あいさつ」で書いたように、世界を旅する意味は、そこに住む「人」に会うことなのでしょう。

旅行中は、現地語の簡単なあいさつは覚えましたが、拙い英語と身ぶり手ぶり・表情・時には筆談で、会話をしました。どこの国でも若い人は英語ができました。英語は世界語だと実感しました。そして、自分の英語力の「なさけなさ」を思い知りました。

帰国のためヒースロー空港に向かうタクシーの中から、大きな虹が見えました。この旅を祝福しているかの ようでした。Good Luck!

※第117号のタイトル「イギリスはおいしい?」は「ロンドンはおいしい?」の誤りでした。
お詫びし、訂正いたします。
by terakoya21 | 2015-02-09 14:01 | 上越だより

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