Howdy? (てらこや新聞104号 竹川のコーナーより)
2013年 11月 28日
秋、澄んだ真っ青な空が清々しくて、とても気持ちが良い。そして、ある日突然、金木犀の香りが漂ってくる。金木犀の香りは、懐かしい記憶を呼び起こす 気がする。
私の父は亡くなる 数年前に、何を思ったのか、実家の小さな庭に金木犀の木を植えた。全く花を咲かせなかったその金木犀は、なぜか、父が亡くなってから花を咲かせる ようになった。
それまでは、良い香りを運んでくる木としか思っていなかった金木犀だが、父の死後、実家の金木犀が 咲くようになってからは、実家のものであろうとなかろうと、その香りが漂ってくると、必ず父を思い出す。 父が植えた木なのに、その父は自分が植えた木の 香りを嗅ぐことなく逝ってしまった…と、少し切なくなる一方で、必ず父のことを想わせてくれる木に、とても温かい気持ちにもなるのだ。今や金木犀は、私に とって父の木と言ってもいい。
香りがある人を思い出させる例はほかにもある。
例えば、いつの頃からか、淹れたての芳しいコーヒーの香りを 胸一杯に吸い込むとき、私はいつも、亡き亀井芳雄先生を 思い出す。寺子屋に毎日のように淹れたてのコーヒーを運んでくださった亀井先生の、少しはにかんだような表情と笑顔が呼び 起こされる。そしてやはり、もう あの笑顔に会えないのだと思うと、少し切なくなり、 美味しいコーヒーを口にして、心に染み渡るような 温かさも同時に感じるのだ。
私の母は健在だけれど、和服の樟脳の香りを嗅ぐと、母のことを思う。そして、実家に行くと必ず漂っているお線香の香りが、私にとって今や実家の懐かしい香りになっている。母は「そんなに香りがする?わからない」と言うけれど、毎日朝晩、お仏壇にお線香を あげているその香りは、きっと実家の部屋や空間に 染みついているのだろう。その香りを嗅いで、母の 毎日の習慣を思い、やはり温かい気持ちになるのだ。
香りがある人を呼び覚ます…その人を思って温かい気持ちにさせてくれる、それはどこかとても贅沢なことのように思える。そんなふうに感じながら、今年の金木犀の香りを楽しんでいる。
(K.T.)