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Howdy? (てらこや新聞104号 竹川のコーナーより)

~ 香 ~

秋、澄んだ真っ青な空が清々しくて、とても気持ちが良い。そして、ある日突然、金木犀の香りが漂ってくる。金木犀の香りは、懐かしい記憶を呼び起こす 気がする。

私の父は亡くなる 数年前に、何を思ったのか、実家の小さな庭に金木犀の木を植えた。全く花を咲かせなかったその金木犀は、なぜか、父が亡くなってから花を咲かせる ようになった。

それまでは、良い香りを運んでくる木としか思っていなかった金木犀だが、父の死後、実家の金木犀が 咲くようになってからは、実家のものであろうとなかろうと、その香りが漂ってくると、必ず父を思い出す。 父が植えた木なのに、その父は自分が植えた木の 香りを嗅ぐことなく逝ってしまった…と、少し切なくなる一方で、必ず父のことを想わせてくれる木に、とても温かい気持ちにもなるのだ。今や金木犀は、私に とって父の木と言ってもいい。

香りがある人を思い出させる例はほかにもある。

例えば、いつの頃からか、淹れたての芳しいコーヒーの香りを 胸一杯に吸い込むとき、私はいつも、亡き亀井芳雄先生を 思い出す。寺子屋に毎日のように淹れたてのコーヒーを運んでくださった亀井先生の、少しはにかんだような表情と笑顔が呼び 起こされる。そしてやはり、もう あの笑顔に会えないのだと思うと、少し切なくなり、 美味しいコーヒーを口にして、心に染み渡るような 温かさも同時に感じるのだ。

私の母は健在だけれど、和服の樟脳の香りを嗅ぐと、母のことを思う。そして、実家に行くと必ず漂っているお線香の香りが、私にとって今や実家の懐かしい香りになっている。母は「そんなに香りがする?わからない」と言うけれど、毎日朝晩、お仏壇にお線香を あげているその香りは、きっと実家の部屋や空間に 染みついているのだろう。その香りを嗅いで、母の  毎日の習慣を思い、やはり温かい気持ちになるのだ。

香りがある人を呼び覚ます…その人を思って温かい気持ちにさせてくれる、それはどこかとても贅沢なことのように思える。そんなふうに感じながら、今年の金木犀の香りを楽しんでいる。

(K.T.)
by terakoya21 | 2013-11-28 21:57 | Howdy

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