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旅日記 (てらこや新聞102号 海住さんのコーナーより)

第19回
初めてのヨーロッパ アムステルダムの街歩き


アムステルダムのハイネケン・ビールの醸造所前のこじんまりとしたホテルで迎えた朝。通りに面した2階の角っこの部屋からの眺めは、目の前の街路樹と等身大の町並み。アムステルダム中央駅から南に向かって1キロほど。東京でいえば丸の内の端っこにあたるエリアだろうか。駅に近い王宮のところからほぼ200メートルに1本の割合で環濠状に巻く運河を5本渡ったところだ。

近くにはゴッホ美術館などいくつかの名美術館が散らばる。そんな都心ではあっても、パリのシャンゼリゼやニューヨークの五番街はまだ見ていないが、そんな華やぎのイメージとは違う都市の匂いがする。

思えば、大学4年のとき、卒業旅行を売りにしている業者のヨーロッパ1か月間35万円のチラシを見て行きたいと思ったものの、山形で3週間の合宿で免許が取れる自動車教習所代(3食・宿泊込)の19万円の支払いを優先したためヨーロッパをあきらめてから、15年がたっていた。

わたしが投宿したホテルは、古くからこの街の中にある一軒家の趣があってくつろぐ。朝食は半地下の食堂で、見上げたところの窓から、行き来する人々の会話が聞こえてきそうだ。かしこまったフレンチのレストランではなく、大衆食堂でほんとうにおいしいフレンチと出合ったときの気分だ。これから始まる、初めてのヨーロッパでの4か月を思い、うきうきした気分になった。

訪れたのは、ちょうど深まりゆく秋だったせいもあってのことか、こころがスーとリラックスできる。ここへくるまで、名古屋での6月~8月までの暑い夏、9月の東南アジアと灼熱の4か月間  だった。長過ぎた夏にヘトヘトだった。アジアが血気盛んで傍若無人な若者の夏にたとえるなら、 ヨーロッパを成熟した配慮のこころのある大人の都市であることを街々に感じた。人口70万人の 小ぶりの都市であるせいか、人の密集度が低く、木々の葉っぱを揺らす風の音が聞こえてくる。

感傷的な気分に浸るのもよいが、わたしの旅を続けなければならない。わたしの旅は、灼熱アジアでもそうだったが、街を歩く。だいたい、どこの都市でも、3日歩けば、都市の輪郭を覚えることができた。いちばん苦手意識のあったタイのバンコクでは、6時間半もかけ、中心部を一周した。地図で測ると25キロは歩いた計算だ。そこまで歩けば、どこでもその街の輪郭をとらえた気になる。アムステルダムは少しゆったりと同じホテルで3泊4日した。

それに初めて見るヨーロッパだから、気分がはしゃいでいた。

何を見ても絵になる。つい、たくさん、カメラのシャッターを押してしまいがちだ。

アムステルダムは、自転車の街でもあるからクルマの騒音よりも人と人の会話がある街のように 見える。街の区画を一つ越えるごとにある運河の近くには落葉の 近い木々とオープンカフェ。シックな色合いの服装の人たちがたたずむ。かといって、みんな見知らぬ者同士のよそよそしさの街ではなく、カフェや小さな食堂に入れば、ご近所さんが顔を出す下町らしさがある。

衣類を洗濯するコインラインドリーと、不要な荷物を家に送るために郵便局を探していることなどを話すと、すぐに地図を描いて教えてくれる。それをご近所さんがのぞきこむ。観光客のための街ではない。生活している人のさりげない親切がうれしい。

しかし、街中には、街を散策がてら行ける距離にゴッホ美術館やレンブラントの作品が多い美術館、アンネ・フランクの隠れ家など見どころも詰まっている。お昼過ぎにはハイネケンの醸造所見学ツアーに参加した。さすがにそのあたりに来るのは外国の観光客ばかりのようで、わたし同様、見学終了後には出来たてのビールを試飲するのがお目当てみたいだった。わたしの3倍はありそうな胴回りをしたグラスゴーから来たという大男は、エレベーターの中であったときから、よくわからない言葉で大はしゃぎだった。

階上のハイネケンのビアホールは、グラスの触れあう音がこぎみよく響き、先ほどの男の大きな笑い声が聞こえてきた。

いまも、わたしにとってヨーロッパといえば、最初に降り立ったアムステルダムの街の印象がくる。秋風が心地よくなってくると、この街の記憶がよみがえってくる。と、ともに、思い出すのが、ハイネケンの大男と、地元のおばさんたちとさりげなく気持ちが通った会話だ。

この旅をした1995年の秋以来、もう18年。来月55歳になるいまの体力では、あのときのような重いバックパックをかつぎ、街を歩いてその土地を覚えるスタイルの旅はもうしんどい。30代のときで本当に良かったと思う。

(1995年10月3日)
by terakoya21 | 2013-09-29 09:53 | 旅日記

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