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上越だより (てらこや新聞93号 下西さんのコーナーより)

「樹下美術館の壁」

上越市大潟区城野腰に「樹下美術館」があります。友人の何人かが、薦めてくれました。

「こぢんまりしているけれど、おしゃれな建物なの。」「カフェもあって、ゆっくりできるよ。お茶だけでも飲めるよ。」「友達と半日、おしゃべりして過ごしたのよ。」「建物もいいけど、外の木製のデッキで遠くを眺めるのもいいよ。」「館長さんのブログが面白いの。毎日更新しているみたい。ブログの写真もすてき!」「館長さんも、絵を描かれるみたい。」「館長さんが描いたボタニカルアートの絵はがきも売っていたよ。」「ときどき、音楽会や講演会が開かれるようよ。」そして、上越暮らしが5年になるマドモアゼルは、上越のおすすめの場所の一つにここをあげ、「漆喰の壁と、赤い椿の絵の皿が印象的でした。」と。

「樹下美術館」(2007年オープン)は、杉田玄さんの私設の美術館です。雑木林を更地にして建設したので、「樹下」と名付けたのだと受付の人が教えてくれました。収蔵品は、館長のコレクションである、陶芸家 「齋藤三郎」の陶磁器と、洋画家「倉石隆」の絵画です。二人とも上越ゆかりの作家。美術館のしおりの館長のメッセージ、「大家の冠をふされなくとも良い作品を残す作家たちがいます」がとても印象的です。

上越だより (てらこや新聞93号 下西さんのコーナーより)_c0115560_10113864.jpgこの1ヶ月の間に、二度ここを訪れました。まずは11月10日の夜、「16、17世紀イギリスの音楽黄金時代に遊ぶ夕べ」と銘打った、チェンバロ(イングリッシュ・スピネットタイプ・加久間朋子 演奏)とリコーダー(辺保陽一 演奏)による演奏会に行ってきました。小さな美術館ですので、展示品をほとんど片付けて、70脚のいすを入れて、美術館はサロンコンサート会場になっていました。

16、17世紀イギリスというと、女王エリザベス1世からジェームス1世の時代です。バード・ロック・クロフトなど 作曲家の、初めて聴く曲ばかりでした。宮廷や貴族のサロンで演奏されたダンス音楽が中心とのこと、クラシック音楽の楽聖・バッハが登場する100年も以前の音楽でした。ちょうどシェークスピア(1564~1616)の時代と重なります。時代背景を知りたくて「恋に落ちたシェークスピア」のDVDを見ました。シェークスピアが「ロミオとジュリエット」を創作するエピソードを、彼の恋とともに描いていました。貴族のサロンでの舞踏会の場面もあり、ダンス音楽も登場しました。エリザベス1世まで登場しました。

12月2日、美術館の本来の姿が見たくて再訪しました(自宅から西北に約15㎞)。上越に初雪が降った 翌日で、前日の荒天もおさまり、薄日が差しており、雪もほとんど解けていました。美術館の周りの木々は、落葉して、冬支度の雪囲いがしてありました。冬枯れの色と、外壁のクリーム色がマッチしていました。

上越だより (てらこや新聞93号 下西さんのコーナーより)_c0115560_10133476.jpgエントランスからすぐに、倉石隆の絵画展示ホールが あります。まず「黄昏のピエロ」の絵が出迎えてくれ、曲線の壁面に並べられた絵画に誘われます。油絵では特に「秋」と題された絵に、その少女の表情に、魅せられました。

奥には齋藤三郎の陶磁器展示ホールがありました。24点の陶磁器の多くには、見事な絵(色絵・赤絵・染め付け・鉄絵など)が描かれ、陶磁器をキャンバスにした絵画の感がありました。

倉石隆(1916~1998)は、上越市高田地区に(旧 高田市長 倉石源造の次男)生まれました。戦争・貧困・脳梗塞による右半身麻痺など逆境の中、ひたすら絵画(油彩・銅版画など)と向き合った人でした。また、彼は物語の挿絵の仕事もしており、松谷みよ子の『ふたりのイーダ』(「松谷みよ子全集14」講談社)の挿絵を描いていると知って、読んでみました。物語の舞台である被爆地ヒロシマと、「イーダ」が口癖の幼女としゃべる椅子。版画による挿絵が20ページにおよび、物語と挿絵の両面から楽しめました。そして、倉石隆の世界の一端に触れることもできました。

齋藤三郎(1913~1981)は、新潟県栃尾(現 長岡市)に生まれました。陶芸界の巨匠近藤悠三や富本憲吉に師事し、戦時中疎開先の高田市寺町(現 上越市)が、築窯の地となりました。上越の陶芸の分野はもちろん、文化人として大きな足跡を残しています。特に彼の椿の絵柄は有名で、上越の人はだれでも見たことがあるくらい。なぜなら老舗菓子店の包装紙に使われているから。

上越だより (てらこや新聞93号 下西さんのコーナーより)_c0115560_10151640.jpg
うわさのカフェで、ケーキセットをいただきました。コーヒーの器には、アンティークのものが使われていて、しかも、好みの器が5種類から選べました。わたしは、メルバのドリー・バーデン(1943年製)にしました。少女の絵柄のかわいらしい器です。また、抹茶には、使う抹茶茶碗をチョイスできます(これは、奥様のコレクションとか)。

上越だより (てらこや新聞93号 下西さんのコーナーより)_c0115560_10165625.jpg偶然にも「樹下美術館」を設計した大橋さん(大橋建築設計工房・上越市春日山町)に話を聞くことができました。設計を依頼されたものの、館長とは意見が 衝突してばかりだったとのこと。「建物は対称形がよいかどうか」「外壁の色は、コンクリート打ちっ放しのグレーか彩色するのか」など。結局、大橋さんの意見が取り入れられ、アンシンメトリーのユニークな建物の形になり、景観と違和感のないクリーム色の外壁に 落ち着いたそうです。人気のカフェは、設計があらかた決まった段階でのオファーだったようです。床面を階段で3段ほど下がった、半地下の空間は、「瞬間的に思いついた」と、大橋さんは語っておられました。

「美術館」や「博物館」は、単に「展示する壁」ではありません。美術品を見せるだけではなく、非日常的な時間を演出する特別な場所だと思います。今年の夏に訪れた金沢の「鈴木大拙館」(金沢市本多町)は、 展示物はほとんどなく、静かな空間が提供されていました。「樹下美術館」はまことに小さな空間ですが、不思議な空間であり夢の「壁」です。
by terakoya21 | 2012-12-29 10:18 | 上越だより

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