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Bonjour! (てらこや新聞89-90合併特大号 谷のコーナーより)

それが答えだ!

寺子屋では講師と生徒の授業中の一見何でもないやりとりから、宿題や小テストが“発生”することがある。その上、その課題を与えられる対象には、講師と直接やりとりのあったクラス以外の生徒も含まれることは珍しくない。今年はすでに平年を上回る数の課題が出ている。

一体、どんな過程を経てどんな課題が生まれるのかを解説してみようと思う。

中学2~3年生のクラスで英文 “Tom visited Beijing for the first time.”*1 を日本文にする問題を答え合わせしているとしよう。

生徒がつまるところはvisited / Beijing / first / time の意味がわからない。そして自分の答えに自信がない……といったところだろうか。

簡単に言うと、前述の問題は、それぞれの英単語・成句の意味がわからなければ○はつかない。生徒が解けなかった問題が出たとき、正答を読み上げれば、すぐに次の問題へ進むことができるが、答え合わせの方法はクラスのレベルや優先事項によって異なる。

生徒がもう一度考えられるためのヒント*2を出す方法を選んだ場合、寺子屋では同じクラスの生徒はもちろん、たまたま隣で自習をしている生徒なども巻き込みながら、正答を確かめていくことが多い。

*2
・ visitedは動詞visit (=~を訪れる、~を訪問する)にedがついた過去形(「~した」の形)であること。

・ Beijingは最初の文字が大文字なので、人名か地名であること。2008年にオリンピックが開かれた中国の首都名であること。

・ timeはここでは「時間」という意味ではなく、「~回」という意味であること。firstは野球のポジション名にも使っている「第一の、最初の」という意味であること。

私が戸惑うのは、手助けになるだろうと差し出したヒントが、生徒たちにはもとの問題より難しい質問となってしまったときだ。なぜ答えと直結しないような別の質問をするのかと怪訝な顔をされるのも経験済みだ。同時に、それは私が「英語を母語以外の言語として学ぶときにまず必要なのは、基礎的な日本語力、一般常識的な知識、身近な英語への関心*3なのだ」と確信を強めるときでもある。

*3
・日本語で「訪れる」から過去形の「訪れた」に 言い換えられないこと。「~に訪れた」の間違いを正せないこと。

・ Beijingが人名なのか地名なのか判断できないこと。中国の首都がどこかをわからないこと。

・ カタカナで使っている野球用語が英語だと知らないこと。

場合によっては授業の進行を一時中断し、改めてクラス全体へ別の質問を投げかける。いや、確かめずにはいられない。中国、韓国、イギリス、アメリカ……国名と首都名は正しくペアになるのだろうか。

私:「他に知っている首都はありますか?」
生徒A:「ロンドン。」
私:「ロンドンはどの国の首都でしょう?」
生徒B:「イギリス。」

そして、生徒Bに地図上で示してもらおうとしても、イギリスは日本の近くに目を凝らしていては見つからない。今年は2012年、ロンドンではオリンピックに続けてパラリンピックが閉幕したばかりだ。あれほど日本で話題にされていた場所のことなのに、生徒たちの言動を見ていると、世の中の出来事と学校や塾での勉強とは異次元のことだと思っているようにさえ感じる。

私:「イギリスはどの地域にあるかわかっていますか?」
生徒B:「地理はわかりません。」
生徒C:「ずっと日本にいるから、別にいいです。」
私:「そう。じゃあ、日本から確認しようか。」

先の事を考えれば、中学生たちの開き直りともとれる態度を見過ごせないだろう。遠回りに思えても、関係なさそうに見えても、前提はいつも「英語力の向上を目指すために今必要なもの」として課題を考える。

こうして、そのクラス全員と私が必要だと判断した生徒には「都道府県名を漢字とローマ字で書く」という共通課題が出されることになる。

私:「漢字がわからなかったら調ること。プリントの全欄をすべて埋めて来週提出してください。」
生徒:「……はい。」
私:「この次は白地図に書き込むプリントを用意してあるから、確かめておいたほうがいいよ。」
生徒:「……はぁ。」

母語の言語力、一般常識、外への興味……きっと英語に限ったことではないはずだ。

*1 日本文:トムは初めて北京を訪れました。

注)文中の私と生徒とのやりとりはフィクションです。実際とは異なります。

♪それが答えだ! / ウルフルズ /
詞トータス松本 / 曲トータス松本 / 1997.2.26
by terakoya21 | 2012-10-09 07:00 | Bonjour

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