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上越だより (てらこや新聞76号 下西さんのコーナーより)

ブロンズプロムナード
上越市と松阪市との共通点の一つは、城下町であり、城跡が公園になっている点です。
高田城と松阪城を比べてみると、おもしろいことに気づきました。

松阪城は、蒲生(がもう)氏(うじ)郷(さと)によって1588年築城されました。梯(てい)郭式(かくしき)平山(ひらやま)城(しろ)という形式で、石垣の美しい、立体的に美しい印象です(百名城の一つに選ばれている)。滝廉太郎の「荒城の月」を聞くたびに、私は松阪城の城跡を思い浮かべます。

高田城は、徳川家康の六男(2代将軍秀忠の弟)である松平忠輝によって、1614年築城されました。形式は輪郭式(りんかくしき)平城(ひらじろ)です。両城の築城時期は、わずか26年の差ですが、安土桃山時代と江戸時代の違いが、城の形にはっきりと表れています。

高田公園に、ブロンズプロムナードができたのは、昭和57年から平成5年にかけてのことです。西堀に沿った遊歩道、約550メートルの間に、16基のブロンズ像が設置されています。上越市市役所でその趣旨を聞いたところ、次のようなものでした。
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「働くだけの生産都市」ではなく「文化的雰囲気を加えること」によって「住む人」も「訪れる人々」にとっても「魅力ある都市になる」ことをめざしている。また、「市民」が「いつでも文化的施設に接することができる」ことを考えて「高田公園の野外」に「ブロンズプロムナード」という形になった。「上越市ゆかりのある」、また「趣旨に賛同」した芸術家による。

上越出身の作家と作品名
滝川毘堂(たきかわびどう){旭光}・
岡本銕二(おかもとてつじ){なぎさ}・
岩野勇三(いわのゆうぞう){BALANCE}

上越ゆかりの作家と作品名
戸張(とばり)幸男(ゆきお){明}・
小池(こいけ)藤(ふじ)雄(お){蒼い空}・
千野(ちの)茂(しげる){フォーム}・
峯田(みねた)敏郎(としろう){西風の防波堤}

趣旨に賛同した作家と作品名
佐藤(さとう)忠(ちゅう)良(りょう){演技生}・
船越(ふなこし)保(やす)武(たけ){LOLA}・
柳(やなぎ)原義(はらよし)達(たつ){道標 鴉(からす)}・
峯(みね)孝(たかし){出}・
堀内(ほりうち)正和(まさかず){はてなの萼(うてな)}・
建(たて)畠(はた)覚造(かくぞう){DISK}・
向井(むかい)良(りょう)吉(きち){流木の渚のジャコメッティ}・
土谷(つちや)武(たけし){蝉}・
澄川(すみかわ)喜一(きいち){そりのあるかたち“84”}

16名のラインナップを見て、「えー、あの人!知ってる!」と驚かれる方は、よほどの美術通でしょう。みなさんが、美術にほどほどの(私が持っている程度の)知識があることを前提に、作家並びに作品を紹介したいと思います。

今年3月、大御所・佐藤忠良さんが98歳で亡くなりました。長い作家生活で、彫刻はもちろん本の挿絵などの仕事もされていました。福音館書店発行の童話『おおきなかぶ』・杉みき子さんの『小さな雪の町の物語』の挿絵は、佐藤さんの手になります。作品「演技生」は、娘さんである女優・佐藤オリエさんをモデルにしているそうです。船越さんとは、同い年で終生のライバルでもあり、また、岩野さんは、高校を卒業後すぐに佐藤さんの指導を受けるようになりました。この「ブロンズプロムナード」に、ライバル同士、そして師弟の作品が並び立っているわけです。

上越市の人なら誰でも知っている銅像といえば、一つは春日山城跡の登り口にある「上杉謙信像」です。これを作ったのは、「旭光」の作者・滝川毘堂さんです。もう一つ、スキー発祥の地の象徴的像である「レルヒ像」は、「明」の作者・戸張幸男さんの作です。(「謙信像」「レルヒ像」とも、観光パンフレットに必ず使われます。)

16基のブロンズ像の中には、女性像が9基、抽象的な像が5基あります。その抽象的な像の中でも、向井さんの「流木の渚のジャコメッティ」や堀内さんの「はてなの萼(うてな)」などは、作品名を手がかりに謎解きをするおもしろさがあります。そして、鴉の像が1基、これは柳原さんの作品です。上越は、カラスが多数生息しており、そのカラスたちの代表として、雄々しい姿を「ブロンズ」にしてもらって、カラスも喜んでいる?
丸山(まるやま)薫(かおる)の詩に「鴉」があります。
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山には黒装束の者がいて / いつも寒い風を呼んでいた /
山には振り向かない頬の者がおり / いつも夕焼に涙を垂らしていた

上越教育大学名誉教授の峯田さんの少女の像は、老若男女問わず人気のある作品です。かたい金属製なのに「風」を感じます。峯田さんの他の作品は、大学をはじめ、公共施設に見られます(人物像・主に木彫)。峯田さんの人物像からは、立原(たちはら)道造(みちぞう)の詩「夢みたものは……」の一節が思い出されます。
夢みたものは ひとつの愛 / ねがったものは ひとつのこうふく /
それらはすべてここにあると

ブロンズプロムナードのすぐ近く、同じ公園内に「岩野勇三ブロンズコーナー」(平成3年設置)があり(岩野さんは、昭和62年56歳の若さで死去)、10基の作品群が展示されています。「おまんた(新潟の言葉で、あなた方という意味)」「吹雪」と命名された上越らしい像、「はぐれっ子」は、不安な子供の内面が伝わってきます。50メートル四方の空間に漂う雰囲気を例えるなら、ビバルディの「四季」が聞こえてきそうな空間、緊張感と安らぎとが交錯します。

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この事業がきっかけとなり、上越市は昭和61年、自治省から「潤いのあるまちづくり」で自治大臣賞を受けたそうです。が、ブロンズたちはもはや高田公園の風景にとけ込んでいるのか、わざわざ鑑賞している人は見かけません。それでいいのですね。芸術が、特別なものではなく、なにげないところに、さりげなくあるのが「上越流」なのでしょう。

7月29日から、高田公園では「はすまつり」が開かれます。堀を埋めつくす蓮の花とブロンズたちが、たくさんの人々をお迎えすることでしょう。
by terakoya21 | 2011-07-28 13:39 | 上越だより

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