あとがき (てらこや新聞65号 亀井先生のコーナーより)
2010年 09月 24日
そして、改めて感じたのが、子どもたち、そして彼らが取り巻く社会がとても「否定的な言葉」に溢れていることでした。
我が母校は、カトリックのミッションスクールです。シスター方はもちろんのこと、多くの卒業生の人生経験豊富な年配の方々に、否定的な言葉を、人を簡単に強く傷つける言葉を口にする人はほとんどいません。もちろん、ひどく叱られたり、厳しい忠告、警告を受けたりすることはあっても、それが、そのときの若者を傷つけても、何年も経って、心に傷として残る言葉を発することは…少なくとも私の周囲には、ほとんどいなかったのです。それが、若いころはうそっぽくて、思春期の自分を苛立たせたこともあったのですが、この年になり改めてその雰囲気に浸りながら、言葉を大切にする、その姿勢がこの母校と同窓会を心温まるものにしているんだなと…感じました。
一方、今まで散々取り組んできたものがしっかりと身についているかを確認する問題やテストを配れば「無理ぃ」、何度も取り組んできた、ありふれたやさしい問題のはずなのに「こんなん、知らん」、何かを伝えれば「うそぉ」、「聞いていない」、単語探しをさせれば「絶対にない」、添削したものを返すと「どこが違うん?」…日常的に聞く子どもたちからの言葉は、思慮の足りない、自分と相手を傷つける、否定的な言葉がほとんどです。日頃の努力はなんだったのかと、ときどき、空しさを感じることもあります。食べ物に関してなど、もう、そのお菓子や食事を買ってきてくれた人はもちろんのこと、作ってくれた人への感謝など、微塵も感じられない発言が、飛び交います。
そして、ときどき寺子屋でも、街でも耳にする親子、兄弟姉妹、友人同士の会話にも、このような言葉は溢れていて、耳を疑い、耳を覆いたくなるものまであります。
人間関係の希薄さと社会の疲弊を、このような言葉の軽さに感じる今日この頃です。
最近、「てらこや新聞」の送付のときに「否定的な言葉」を連発する生徒たちに私が添えるメッセージがあります。
「言葉には魔法の力があります。『わからない』『ない』『知らない』と口に出した瞬間に、わかる問題もわからなく、あるものもなくなり、知っていることも知らないものに変わります。気をつけましょう。」
本当に、言葉には魔力があります。私は大学受験のとき…東京の大学に通っていた姉のところに1ヶ月滞在していたのですが、試験の当日になると必ず、両親からモーニングコールがありました。そして母は、必ず「あなたにできない問題は他の人もできない。だから、気にせず、精一杯の実力を出してきなさい。」と毎回言うのです。19歳で受験を迎えていた私は、母の言葉に「はい、はい」と鼻で笑っていましたが…内心、やはり心強く、その言葉のかけた魔法が、今となっては私が人生における全ての入試で成功した1つの要因だと信じています。
言葉には魔法の力があります。『できる』『わかる』と声にしてみましょう。わからないと思っていたことも、『わかる』ように、できなかったことが『できる』きっかけになるのです。子どもたちだけではなく、社会の全ての大人に、忘れないでほしいと心から願います。
さて、いつものように最後になりましたが、連載の皆さんお忙しい中、今月も本当にありがとうございました。今月初めの同僚の事故により、今月は、小野君のコーナーがお休みでした。同僚の方々のご冥福をお祈りしたいと思います。
また一方で、木下君のコーナーが転勤のために来月から少しの間お休みになります。木下君のブラジルからの楽しく興味深いお話を、また小野君のコーナーの来月号からの再開を楽しみにしたいと思います。
皆さん、これからもどうぞよろしくお願いします。
(Y.K)