上越だより (てらこや新聞138-139号 下西さんのコーナーより)
2016年 11月 14日
9月11日(日)、長岡市千秋が原にある長岡リリックホールに行ってきました。ホール開館記念20周年記念として、NHKFM放送の「きらクラ」という番組の公開収録に出かけたのでした。「きらクラ」は、気楽にクラッシック音楽を楽しもうという趣旨の番組です。日曜日の午後、放送されます(月曜の朝の再放送)。公開収録観覧者は、応募はがきの抽選で決まりました。そうです、見事当選したわけです。
この番組は、気楽にクラシック音楽に親しむために、コンテンツがいくつか用意されています。例えば「きらクラDON!」(イントロクイズ)、「BGM選手権」(詩や文章の朗読にBGMをつける)、「勝手に名付け親」(曲に表題をつける)などなど、ネーミングが愉快です。
レギュラー出演者(進行係のことを最近はMCというらしい)は、タレントのふかわりょう、チェリストの遠藤真理、ゲスト出演者にピアニストの上原彩子、コントラバス奏者の池松宏、ハープ奏者の篠崎和子の面々でした。
通常の番組では、リスナーのメールやお便りを読みながら、MCが感想を述べたり意見を言い合ったり、MCの体験談を織り込みながら、コンテンツをすすめるわけですが、公開収録では、観客と交流しながら番組を進めていきます。ふかわりょうさんは、さすがしゃべりのプロ。番組の進行の仕方、さばき方が見事でした。もちろん、ディレクターやアシスタントが黒子のようにMCに寄り添い、番組を取り仕切る様子も見ることができました。
では、プログラムを紹介しましょう。
●上原彩子(ピアノ)
♪前奏曲 嬰ハ短調 「鐘」 ラフマニノフ作曲
♪「チェロ・ソナタ」から第2楽章 ショスタコーヴィチ作曲 *チェロ:遠藤真理
♪花のワルツ チャイコフスキー作曲/上原彩子編曲
●池松宏(コントラバス) 篠崎和子(ハープ)
♪エストレリータ(小さな星) ポンセ作曲
♪チャルダーシュ モンティ作曲
♪「チェロとコントラバスのための二重奏」から第3楽章 ロッシーニ作曲 *チェロ:遠藤真理
♪カヴァティーナ マイヤーズ作曲
公開収録ですから当然、生演奏が聞けました。生の迫力とは、空気の振動が伝わるからでしょうか、音源が見えるからでしょうか。
また、演奏者の人となりがわかるおしゃべりの時間も楽しいものでした。談笑して、すぐ後に演奏する集中力はみごとなものです。
上原彩子さんは、3人の子どものお母さんで、同じく2人の娘さんのお母さんである遠藤真理さんとは子育て談義も始まりました。「鐘」(ラフマニノフ作曲)のおごそかな演奏、「花のワルツ」(チャイコフスキー作曲)のはなやかな演奏とは違う、別の表情を見ることができました。
上原さんと遠藤さんは小柄でしたが、池松さんは長身でルックスもすてきでした。池松宏さんの紹介には、学歴・職歴のほかに、ニュージーランド交響楽団首席コントラバス奏者として、ニュージーランド滞在中に、「ナショナル・フライフィッシング・ペア大会で優勝」まで記されていました。この行からも、池松さんの人柄がうかがい知れます。実際に演奏を聴いて、真剣ではあるが、遊び心あふれた演奏でした。「チャルダーシュ」の演奏では、題意の居酒屋どおり、千鳥足やろれつが回らない酔っぱらいを彷彿とさせるパフォーマンスで、とても楽しいものでした。また、コントラバスの音色が豊かであることを知らしめ、しかもメロディーを軽快に奏されるのは、初耳だったかもしれません。
信濃川の左岸には、「ハイブ長岡(産業交流館)」「長岡リリックホール」「新潟県立近代美術館」「千秋が原ふるさとの森」と公共の施設が集まっています(上越市より60km 余り)。「長岡リリックホール」と「新潟県立近代美術館」は道路を隔てて隣にありますが、空中廊下でつながっております。長岡も雪国ゆえ、冬の悪天を避ける配慮がなされています。ちょうど美術館では「ボストン美術館 ヴェネツィア展」が開かれており、この廊下を渡って訪れました。
ホールの前庭には、「米百俵」の群像が立っておりました。山本有三が戯曲化した「米百俵」の一場面です。幕末に幕府側に就いた長岡藩は非常に窮乏していましたが、他藩からの百俵の支援米を食べずに、未来のため教育費に回すことにしました。この提案をした小林虎三郎のエピソードは小泉純一郎首相によって紹介されたことがあります。
25年くらい前の夏のある日、指揮者の小澤征爾さんが上越に来たことがありました。桐朋音楽大学の学生さんと、夏休み合宿ツアーの一環でした。通常の音楽ホール以外で、通常クラシック音楽に親しんでいない人にも聞いてもらいたいという趣旨で、「光源寺」(上越市国府 1丁目)でミニコンサートが開かれました。「光源寺」はという真宗大谷派の古刹で、親鸞聖人やその弟子のゆかりの寺です。
シークレットコンサートでした。口コミでコンサート開催を知りました。小澤さんのほかに、盟友であるチェリストのロストロポーヴィチさんと、MCに元NHKアナウンサ・頼近美津子さんがいっしょでした。曲名は忘れましたが、満員の本堂での小澤さんの指揮とロストロポーヴィチさんのチェロを演奏する姿は、映像のよう頭に保存されています。あの時の興奮と幸せ感は忘れられません。きわめて近い距離で、すなわち同じ板の上で、同じ空気を吸って、音楽に浸りました。
「きらクラ」公開収録は、遠藤さん・上原さん共演での「子犬のワルツ」(ショパン作曲)で始まり、「上を向いて歩こう」(中村八大作曲/上柴はじめ編曲)でフィナーレを迎えました。出演者全員が演奏に加わり、観客は口笛で参加することができました。ミーハーなクラシック音楽ファンにとって、夢のような一日となりました。