I Love Books! (てらこや新聞119号 竹川のコーナーより)
2015年 03月 28日
「ようこそ、わが家へ」(小学館文庫)
「ようこそ、わが家へ」。そんなふうに言われると、歓迎ムードでおもてなしをしていただけそうな雰囲気に思えて、あたたかな気持ちに包まれそうですが、今回ご紹介するこのお話は、身近に潜む恐怖を描いた作品です。読み始めてすぐ、背筋がぞくっとするような恐怖を覚えました。
主人公は、真面目なだけが取り柄の会社員・ 倉田太一。ある夏の会社帰り、駅のホームで割り込みをした男を注意したことから、倉田家は様々な嫌がらせを受けるようになります。踏み荒らされる花壇、郵便ポストへの瀕死のネコの投げ込み、車への傷つけ、さらに部屋からは盗聴器も発見されるようになります。
穏やかな日常を取り戻したいと家族全員でストーカーと対決していくというお話に、倉田太一の出向先の会社でも、営業部長に不正の疑惑を抱いたことから、どんどん窮地に追い詰められていくというお話も加わっていきます。
穏やかな家庭を取り戻すべく一家が一致団結していく様子は家族小説であり、銀行からの出向者という立場で負い目を感じながらも不正疑惑の解決に奮闘していく姿は企業小説とも言えます。
この二つの側面を重層的に描いた作品で、読み応えがありました。半沢直樹に代表されるように、池井戸作品の主人公たちは、とても精神的に強い男性が多いと思うのですが、今回の主人公は、真面目だけが取り柄の弱い人間、私たちの周りに普通に存在しているようなごくごく平凡な男性です。
ラストに書かれる「名もない人間でも、自分の人生を必死で生きている」という言葉に、この小説のテーマが凝縮されていると思います。不器用でも、真面目に生きていくこと、誠実であることを肯定してくれるような一冊です。
今春、フジテレビ系列にて、ドラマ化されるよう です。
( K.T.)