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アメリカ研修日誌 (てらこや新聞102号 大学生のコーナーより)

No. 8

7日目

この日は、教会のピクニックという行事に参加させてもらうことになっていた。ピクニックというと野原や公園でサンドウィッチなんかをつまむイメージだが、ここでいうものはそれとは別物らしい。ピクニックについてはちんぷんかんぷんなまま、それでもぼんやりと楽しげなイメージを抱きつつ、シェリルさんたちと一緒に会場へ向かった。

ピクニックの会場は教会横の屋根付き広場だった。地元の人たちがそれぞれの得意なものを持ち寄って開いたというような店が、いくつも並んでいる。奥の食堂では、お母さんたちが昼食の準備をしている。ステージからはおじさんたちの陽気なバンド演奏が聞こえてくる。

私たちはまず、チャーリーンさんのお母さん(Mrs.クベンカ)の店に向かった。店先にはこの日のために作られたオリジナルTシャツが並んでいる。Mrs.クベンカには、コーン畑を見学させてもらった日だったかに、ガソリンスタンドの売店でお会いしたことがあった。色鮮やかなお菓子やジュースに囲まれて明るい笑顔を見せる彼女にかわいらしい印象をもったが、農場の奥さんだったことやチャーリーンさんの姿から想像するに、しっかり者の肝っ玉母さんに違いない。この日はご主人(Mr.クベンカ)も会場にみえていて、私は初めましてのあいさつをした。背が高く体も大きな方で、相応しい表現が見つからないが、おじいさんとしてというより男性としてかっこいいなぁと思うような方だった。ご両親とお会いして、チャーリーンさんはお父さん似、ダーリーンさんはお母さん似だなぁと思った。

ミサ*1が始まるとシャーロットたちは教会に行ってしまい、先生と私は屋台で飲料を購入し、ベンチで座って話をした。その間にMrs.クベンカにいただいたTシャツに着替えた。ピクニックTシャツに着替えると、通りすがりの参加者というのではなく、「私もここの一員」という気がしてうれしくなった。

テキサス滞在中、先生と日本語で話すのは就寝前の短い時間ぐらいで、ゆっくりと話せたのはこのときくらいだった。英語に囲まれて過ごしていて理解しきれていない部分が、こうして先生と話すことで補われていった。先生は、留学時代の経験も踏まえてテキサスやアメリカ(の人々)に対する思いを話してくださったから、自分で物事を考えるきっかけになった。この日誌に書いてきたことも、その多くが先生の話してくださったことから影響を受けている。

このときは、community*2について話をした。「日本だとコミュニティといわれてもしっくりこないよね」と先生に言われ、「確かになぁ」と考えた。最近は日本語でもコミュニティという言葉が一般的になってきている。私の周りでは、SNS*3用語として「共通の趣味や目的を持つ人たちの集まり」という意味でよく使われている。ここで先生が言っているのは「地域共同体」とか「地域社会」という意味だろう。そういう意味では、特に東日本大震災以後、頻繁に耳にするようになったと思う。だが、コミュニティと聞いて「近所づきあいと呼ぶ範囲よりはもう少し広そうだ」となんとなく想像するくらいで、それがどういうものなのか、実感としてはわかっていない気がする。多分経験として知らないのだと思う。日本語で地域共同体と言われても、もっとしっくりこない。先生はピクニックという行事について、「コミュニティここにありき」と話していた。この会話があったから、私はこのあと「コミュニティとはなんぞや」ということも頭の片隅に置きながら、ピクニックを楽しむことができたのだと思う。

手作りの店が並ぶ場所から少し高くなったところにある広場では、バンドによる生演奏が行われ、人々は手をとりダンスを踊っている。バンドメンバーはほとんどが、おじいさん寄りのおじさんたちで、その中に交じって紅一点のおばさんがキーボードやボーカルを務めているといった具合だ。ゆったりしたギターのメロディーラインが心地よいこの音楽が、カントリーミュージックというものだろうか。ハワイアンミュージックにも似ている。おじさんたちがそれぞれの楽器を、目を細めながら自分たちも音に酔いしれながら演奏している姿は、いいなぁーと思わず足を止めて見入ってしまうくらい、いい感じだった。音楽に、おじさんたちの姿に、癒された。

そして、演奏が始まると自然と踊りだす人たち。おじいさんおばあさんが多いが、私の両親くらいの年齢の人たちやもっと若い人も交じって、夫婦や親子と思われるペアがステップを踏んでいる。静かにただひたすらステップを繰り返すふたり、笑い声を上げながら踊る親子らしきふたり、少し恥じらうようにしながらどちらからともなく「踊りましょう」と手をとりあうふたり。様々な人間模様がそこにはあった。大体のペアはおそらく夫婦だろうと思われたが、このふたりはどんな関係なのだろうと想像するのも楽しかった。どのペアも、この場所で踊っているということそれ自体が、素敵なふたりであることを証明していると思った。

先生はどこに行っても“Yoshie~!!” と声がかかる人気者なので、私は初対面の人たちに簡単に挨拶を済ますとひとりでぶらぶらしていた。チェイスはいとこや友人たちと水鉄砲を持って走り回っているし、シャーロットも友人たちと楽しそうだ。シャーロットは私を彼女の友人たちに紹介してくれたが、その後一緒にいるということもなく、私は終始ほどよく放っておかれていた。テキサスに来てから大体そんな感じだった。もちろん、安全な場所だということがはっきりしているという前提あってのことだ。皆いつも自然体で、それぞれがしたいようにしている。逆の立場だったら、例えば海外からのお客さんを日本で受け入れるような場合、私ならほとんどずっと彼女や彼の傍にいると思う。でもここでは、私が海外からのゲストに対してしそうなそんな対応は受けなかった。亀井先生にひょっこり着いて来た教え子という立場だったから、一般的なホームステイにきた外国人というのとは、捉えられ方が違ったのだろう。みなさんの普段の生活の中に居候させてもらっているという、本当にそんな感じだった。

№9へつづく  
*1
ミサ:(英mass)[カトリック教会で] 聖餐式。
→[キリスト教で] キリストが十字架にかけられる前夜の最後の食事を記念して行う儀式。

*2
community:地域社会[共同体]、コミュニティ;市町村、自治体;地域住民(の全体)

*3
SNS:social networking service
インターネット上の登録会員向けの情報交換・交流サイト。また、そのサービス。
参考:ウィズダム英和辞典、新明解国語辞典
by terakoya21 | 2013-10-01 19:41 | アメリカ研修日誌

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