不思議な宣長さん (てらこや新聞101号 吉田館長のコーナーより)

第二十五話 「県居」ってどう読むの?

和歌子 7月5日、賀茂真淵先生と宣長が出会った「松阪の一夜」の日に、浜松市の県居小学校に行ってきました。

らん 浜松って静岡の? ウナギの町だ!「アガタイ」ってあの鈴屋の軸に書いてある字ですか。

和歌子 「アガタイノウシ」、賀茂真淵先生のことです。浜松は、町を歩いていると、意外と鰻屋さんが少なくて、ヤマハや河合楽器と、今は音楽の町という印象ね。

らん 県居小学校は授業ですか。

和歌子 4年生5年生と、6年生、二つに分けて「松阪の一夜」のお話し。特に君たちの小学校の名前にもなっている「県居(あがたい)」先生、つまり、賀茂真淵先生はとっても偉い人だったんだよと言うことと、人や本との出会いのすばらしさをお話ししてきました。

らん 反応はどうでしたか。

和歌子 県居小学校は、校名に「あがたい」と真淵先生の号がついているだけに、真淵についてはみんなよく知っているの。でも、教科書には本居宣長しか出てない。ちょっと自信がなくなっているところに、宣長も偉いけど、真淵先生はもっと偉いという話だから、みんな熱心に聞いてくれました。

らん 浜松に行ってサービスしてきたのですね。

和歌子 違います。リップサービスではありません。真淵の偉さは、宣長さんについて考えるほどによく分かってくるの。

らん どんなところが偉いのですか。

和歌子 宣長の才能を、一瞬で見抜いたところ。また、宣長が気をつけなければいけないところが分かった点ね。

らん 宣長さんが気をつけないといけないところというのは何ですか。

和歌子 宣長は賢いから、全部分かったような気になってしまう。わかるかな。自分の頭や能力を過信する。

らん 秀才にありがちですね。

和歌子 でも、それではだめだと自分で気がついたから、真淵にぜひ会いたかったのよ。

らん 真淵先生も天才でしょ、宣長との違いって何ですか。

和歌子 宣長は何でも知っている。でもそんな知識、証拠やデータだけでは、人の心は分からない。特に古代は、今とは食べるものも着るものも、人生観も違うでしょ。

らん 真淵先生は、古代の人の心を知る方法が分かっていたのですか。

和歌子 そうなの。でも、それは高度なテクニックで、簡単に伝授できるわけではありません。宣長の才能や適性などを見ながら、慎重に指導していかないといけないの。だから宣長と真淵先生は手紙を熱心にやりとりして、特に宣長の質問や意見を聞きながら、真淵先生は、ふんふん、これは大事なところだからしっかり教えないといけないなとか、厳しく叱ろうとか考えて、上手に指導してくれたのよ。

らん すごいね。

和歌子 宣長は古典研究の天才だけど、真淵は人を育てる天才だったのよ。適当に隙も見せるしね。

らん 隙があるのですか。

和歌子 けっこう隙だらけ。言ってることが変わるし、お酒を飲んだら楽しくなるしね。

らん 隙のない先生は、弟子が困ります。

和歌子 なぜ私の顔をじっと見るの。私も隙がありますよ。

らん いえ、逆です・・ところで、小学生に真淵さんを教えるのは大変そうですね。

和歌子 そうね。たとえば宣長さんなら、お医者さんをこの松阪の町でやってたよとか、鈴が好きだったとか、家が残っていたり、『古事記伝』35年かけて書いたよとか、まだ子どもたちにも入っていきやすいけれど、真淵先生は浜松に生まれて、京都で長く勉強して、江戸で有名になった人だから、ゆかりの地もばらばらだし、家は戦争で燃えちゃったし、史料も残ってない。代表作も ? という感じですね。  ところが。

らん ところが、どうしたのですか?

和歌子 県居小学校では戦前から現在まで60年以上もずっと県居教育という、真淵先生に関わるカリキュラムを工夫して続けているのです。先生方の創意工夫で、環境問題まで真淵先生と結びつけて、低学年でも、高学年でもなにかにつけて真淵先生と接するのです。その中でも一番すごいのが、真淵先生が作った歌を1年から6年まで毎朝歌うという行事です。

らん ずっと続いているのですか。

和歌子 ずっとです。

らん 覚えちゃいますね。

和歌子 もちろん。子供だからすぐに覚えます。2カ月ごとで歌を変えるそうですから、一年で6首、真淵先生の歌が記憶されるわけね。

らん 百人一首を覚えるみたいだ。真淵先生の歌は、と聞かれたらぱっと答えられるってすごいなあ。宣長さんの歌なんか一つも出てこないよ。

和歌子 何首も歌を声に出して詠んでいると、知識としてだけでなく、歌のリズムが身についてくるのよ。

らん リズムですか。

和歌子 五七五七七で言葉をつなぐと歌になると思っていませんか。歌は、和歌でもAKB48でも、リズムと調べです。

らん 普通の言葉と歌の違いですね。

和歌子 そうです。 だから、子どもたちは真淵先生の歌を覚えると、歌のもつ独自のリズムが身についてくるのですよ。 こういう風に詠むと歌になるんだと言うことが、つまり韻文と散文の違いが分かってくるのね。

らん 効果有るのですね。

和歌子 現実的な効果もありますよ。たとえばどこかで短歌の募集をしていると、県居小学校生が投稿してきた作品はレベルが高いそうです。

らん 入選するんだ。

和歌子 可能性はとても大きいですね。 でもそれ以上に、覚えることが大事ね。また、歌や詩を覚えると、自分で文章を書くときでも、リズムが出てきて、テンポ良く書けるはずです。
いろんなものを覚えておくと、いろんなシーンで役に立ちますよ。

らん 私もこの夏には何か覚えよっと。

和歌子 がんばってね。若い時に覚えたものはいつまでも残っているからね。

*「てらこや新聞」101号は、2013年8月20日に発行されたものです。
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by terakoya21 | 2013-09-11 00:15 | 不思議な宣長さん

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