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上越だより (てらこや新聞92号 下西さんのコーナーより)

「にわか鉄ちゃん、軽便に乗る」

10月14日は「鉄道記念日」ということで、10月は各地で鉄道にまつわる催し物がありましたが、上越市でも、週末ごとに鉄道関係のイベントがありました。

上越だより (てらこや新聞92号 下西さんのコーナーより)_c0115560_17323014.jpg直江津駅は開業126年と歴史を持つ駅で、しかもJR西日本(北陸本線の終点)とJR東日本(信越本線)の境界駅ということで、直江津駅の施設見学会がありました。また、2015(平成27)年開業予定の北陸新幹線の建設途中の上越駅(仮称・駅名がなかなか決まりません)内部の見学会もありました。

そして、私が参加したのは10月20日、上越市頸城区 百間町のくびき野レールパーク(頸城鉄道の機関庫跡地・平成20年オープン)で行われた公開イベント(NPO法人 くびきのお宝をのこす会主催)です。このイベントの目玉は、旧頸城鉄道(軽便鉄道)のディーゼル気動車「ホジ3」が 修復され、41年ぶりに自力走行が可能となったことです。

「軽便鉄道」とは、建設費・維持費の抑制のため低価格で建設された鉄道です。1911(明治44)年に軽便鉄道法が施行され、全国的に鉄道建設ブームが起きました。現在のJRの軌間(レールの幅)が1067㎜に対して、それ以下の軌間で作られましたので、ナローゲージと呼ばれたりもしています。ところが、大量輸送・長距離輸送には限界があり、バスやトラックの台頭により徐々に廃止をされました。ちなみに、三岐鉄道北勢線と近鉄八王子線(廃止が決まった)は軽便鉄道(ナローゲージ)だそうです。

宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』(新潮文庫)の「鉄道」は軽便鉄道です。

……気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗っている小さな列車が走りつづけていたので した。ほんとうにジョバンニは、夜の軽便鉄道の、小さな黄いろの電燈のならんだ車室に、窓から外を見ながら座っていたのです。……

上越だより (てらこや新聞92号 下西さんのコーナーより)_c0115560_17331091.jpg上越地方では、1914(大正3)年から1968(昭和43)年まで 軽便鉄道が走っていました。全長15㎞、「新黒井(しんくろい)」から「浦川原(うらがわら)」の区間の頸城(くびき)鉄道です。「新黒井」は、直江津駅に近いですが、沿線は鉄道敷設には中途半端な場所、つまり田園地帯で、市街地でも観光地でもない場所に、なぜ軽便鉄道が作られたのか、 不思議に思っていました。

その謎に、梅村正明さんは自著『頸城鉄道』(ネコ・パブリッシング)で、

上越地方屈指の大地主であった百間町の山田家。その当主辰治氏とそこから養子に出た弟の大竹謙治氏。この二人が中心になって計画を立てたもの。……大富豪の仲良し兄弟が村と直江津を結ぶ文字 通りプライベート鉄道建設を思い立ち、……

と推論しています。このような立地条件や競合するバスの運行にもかかわらず、1945(昭和20)年までは、黒字を続けていたそうです。客車ばかりではなく、小さいながら貨車もつないで、米などの物資の輸送にも 使われました。豪雪のため、列車が立ち往生することもしばしばあったようですが、バスよりは運休の日数が 少なかったので、沿線の人々にはありがたい鉄道には違いありません。

上越だより (てらこや新聞92号 下西さんのコーナーより)_c0115560_17331668.jpg
「ホジ3」は1971年の廃線後、神戸の六甲山で眠って(?)いたのを、8年前に上越市が買い戻し、さらに地元の業者により修理され、自走するはこびとなりました。保存されていた当時の線路も一部敷設されました。

「ホジ3号」は、客車改造気動車で、大きさは、長さ  約10メートル・幅約2メートルで、運転席は客車内(前後)にあります。座席24人掛け(つり革18人を含め42人  乗り)で、前後に運転席と運転士の乗降口があり、中央に客用の乗降口があります。車内の内装(全体に焦げ茶色)は、木製で、もちろん窓枠も木製で、懐かしさ満載。床下に収まりきれないディーゼルエンジンが車内中央に出っ張っていて、それが木製カバーで覆われています。開業当時は、畳敷きだったとか、かなりユニークな車体だったようです。

試乗会では、200メートルくらいひかれたレールを ゆっくりと往復しました。車内では、運転士の他に車掌 さんも乗っていて、切符を売っていました。「本日特別、コウケンはいかが?シャナイケン?もあります。」同乗の”鉄ちゃん”らしき男性が、「硬券」を買いました。懐かしい厚紙の切符でした。また、車内で車掌さんが売っていた切符「車内券」は、薄い紙の切符に、乗った場所と行き先とを「はさみ」でパチパチと穴を開けて売っていました。これも懐かしい光景でした。客車内は、乗り合いバスよりも狭く、左右の窓側のベンチシート形の座席では、向かいの人の膝が近く感じました。

おもちゃみたいな電車に乗って楽しいか?と自問しながら、乗り込んだのですが、けっこうワクワクしました。また蒸気機関車コッペル2号も動態保存されていて、この日も乗客を乗せて、汽笛一声、走りました。

上越だより (てらこや新聞92号 下西さんのコーナーより)_c0115560_1734434.jpg2015(平成27)年に、北陸新幹線が長野~金沢間で開業することによって、上越地区の鉄道事情は大きく変わろうとしています。信越線と北陸線の一部(並行在来線)は、JR東日本・JR西日本からそれぞれ経営分離し、第三セクター「えちごトキめき鉄道(株式会社)」となります。前者が直江津駅~妙高高原駅(妙高市)の「妙高はねうまライン」、後者が直江津駅~市振駅(糸魚川市)の「日本海ひすいライン」と名付けられました。126年の歴史を持つ「直江津駅」は残念ながら新幹線駅から外れてしまいました。

直江津駅前にある「市立直江津図書館」には、平成22年から「鉄道コーナー」の書架が設けられました。まだ、1960冊と蔵書数は少ないですが、旅・鉄道工学・車両・時刻表・鉄道政策・鉄道経営・運転・鉄道員・文学などのジャンル分けがされており、模型などでかわいらしくレイアウトしてありました。話題の『鉄道ネコ』の写真集や『駅弁100』なども並んでいました。私もこのコーナーから、『駅――JR全線全駅 上下』(ステーション倶楽部編・文藝春秋社)と『女流阿房(あほう)列車(れっしゃ)』(酒井順子著・新潮社)を借りてきました。今後、老若男女が楽しめるコーナーとして、また「直江津駅」のプライドにかけて「読み鉄」のためのコレクションを、充実させてほしいものだと思いました。
by terakoya21 | 2012-12-13 17:34 | 上越だより

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