不思議な宣長さん (てらこや新聞74号 吉田館長のコーナーより)

第四話 宣長少年、漢字を習う

和歌子 宣長の字を見てきましたか。ていねいだったでしょう。

らん 『古事記伝』もだけど、宣長さんの字は、「これ、ほんとに筆で書いたの」という感じ。サインペンで書いたみたいな字だったので驚いた。
でもその隣に、昔の習字のお手本が展示してありました。それは、いかにも筆と墨で書きましたっていう字ですね。

和歌子 同じ筆と墨でも、書く人によってずいぶん印象が違うでしょ。

らん  習字のお手本って解説に書いてありましたが、あんな大きな本を持って勉強に行くのですか。

和歌子 展示してあったような巻物は大切にしまわれていて、それをてらこやのお師匠さんや、お父さんやお母さんが真似て書いてくれます。それを使います。

らん  ずいぶん難しい漢字も書いてあったけど、宣長さんは何歳から勉強したのですか。

和歌子 8歳の8月(現在の10月頃)、西村三郎兵衛のところで手習いを始めました。「いろは」や手紙の書き方といっしょに『千字文』の「天地」も習いました。


らん  「天地」だけですか。たった二文字ですけど。

和歌子 あのお手本は、『千字文』(せんじもん)といって「天地玄黄、宇宙洪荒」と四文字で一つの言葉になって、それが250集まって、つまり全部で1000の漢字が書かれた教科書です。中国で出来た本で、伝説では、王仁(ワニ)という人が、西暦285年に日本に伝えたと言われています。

らん  えっ、ワニが伝えたのですか。

和歌子 人の名前よ。

らん  それにしても、ずいぶん古いんですね。

和歌子 日本に伝わってきた最初の本の一つなの。もう一つは『論語』だけど、この二つの本で、公式には日本人は最初に文字を知ったといわれているのよ。

らん  そんな古い教科書を使っているんだ。

和歌子 『千字文』は書のお手本として、『論語』は孔子という聖人の言葉を書いた本で儒教では一番大切な本とされてきました。さすがに現在、『千字文』を勉強する人はもういないけど、『論語』は今も愛読する人が多くて、わかりやすい本や、子ども向けの本、マンガにもなっているから、また探して読んでみたら。

らん  『千字文』は、「天地」二文字だけ習っただけですか。

和歌子 そうその話でした。江戸時代の勉強法はとてもユニークで、8歳の秋、三ヶ月あるけど、この二文字だけ。9歳の春は三ヶ月かけて次の「玄黄」という二文字、それ以後は少しスピードアップするけど、信じられないくらいスローペースでていねいに習ったみたい。

らん  たった二文字ってすごいですね。

和歌子 字を習うというより修行ね。心を養うのだと言う人もいます。中国で出来た漢字はとても奥が深いので、その気になればいくらでも深く教えられるけど、なんていっても今ならまだ小学一年生だから、先生の手本を真似て、姿勢が悪いとか、筆の持ち方がなっとらんなど叱られながら勉強したんでしょうね。

らん  宣長は勉強好きでしょ。そんなに叱られないと思うな。

和歌子 ところがね、宣長さんは年を取ってから、どうしてきちんと手習いをしなかったのだろうか反省しているのです。らんさんの周りにもいるでしょ。本を読むのは好きだけど、学校の勉強はちょっと、という人。

らん  いますね。

和歌子 ところで漢字は文章を書く時にどうしても必要ですね。

らん  ひらがなやカタカナばかりだと意味が分かりにくくなります。「はな」では、花か鼻かわかりません。

和歌子 日本人にとって漢字はとても大切な文字でした。漢字から、やがてひらがなやカタカナも生まれてきました。社会で習ったでしょ。

らん  はい、たしか「安心」の「安」から「あ」、「阿坂」の「阿」から「ア」が出来たと習いました。

和歌子 よく知ってるわね。そんな私たちの生活と切っても切り離せない漢字について、宣長は重大な疑問を持つの。実はこれが宣長の学問の核心部分なのよ。

らん  宣長の学問の核心なんていわれても、私わかんないよ。

和歌子 漢字は便利だけど、とんでもない余計なことや、いたずらもするのよ。それに気づいたのが宣長さんなの。次から少しずつお話ししてあげる。今日は、宣長少年と漢字が出合ったお話でした。
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by terakoya21 | 2011-06-10 14:42 | 不思議な宣長さん

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