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I LOVE BOOKS (てらこや新聞53号 竹川のコーナーより)

BOOK20: 北村 薫 「街の灯」

以前ご紹介したことのある「ひとがた流し」に続く、北村薫さんの著書第2弾です。

北村薫さんといえば、先日「鷺と雪」で第141回直木賞を受賞されました。

今回ご紹介する「街の灯」「玻璃の天」、そして直木賞受賞作「鷺と雪」はシリーズものです。

舞台は昭和7年。士族出身の上流家庭のご令嬢・花村英子と、そのおかかえ女性運転手となった別宮みつ子(英子は彼女のことを“ベッキーさん”と呼んでいますが)が主人公のミステリー作品です。

この作品でも、北村さんの描く女性は、自尊心があり芯が強い印象を受けます。戦争へと突き進んでいく時代背景、そして、登場人物は華族や上流家庭の何不自由ない生活を送っている人達なので、現代の私達から見ると浮世離れした世界のお話のようにも思えたのですが、読み進めていて私には全く違和感はありませんでした。

主人公・英子が遭遇するミステリーは、あっと驚くような派手なトリックが仕掛けられているような大掛かりなものではなく、日常に潜むちょっとした、ひそやかな謎を、ひとつひとつ紐解いていくというようなものです。

今作の中で主人公・英子が「答えの見つからないものがあると気になるでしょう?」と言っています。

そしてそれを受けて英子の叔父が「何によらず、物事というのは汽車の窓から眺める風景のように、我々の前を過ぎて行く。その中から、《おや、あれは何だろう》《どうして、あんなことになるのだろう》という疑問を見つけるのは、実は、想像以上に難しいことなのだよ」と言います。

北村さんの描くミステリーは、まさにその言葉に凝縮されていると思えます。日常の見落としてしまいそうなささやかな謎をすくい取って、そこに「人間」を描いています。それが私にはとても心地良い。とても優しいまなざしで描かれている登場人物たちに心を許していると、ドキッとさせられる人間の暗い部分、厳しい部分を見せつけられてハッとするのです。そして、私はますます北村ファンになっていっています。

直木賞受賞作の「鷺と雪」を早速手にいれ、いつでも読めるのですが、続きものだけに、「街の灯」の次には「玻璃の天」を読まないと…と思っているものの、この「玻璃の天」、まだ文庫本で発売されていないし(現在は発売中)、単行本でもこのあたりの本屋さんでは見かけない…ネットで購入するか文庫本になるのを待つか…待っていたら「鷺と雪」もなかなか読めない…どうしよう…というジレンマ(?) に陥っている今現在です(-_-;)。

ミステリー作品ですが、「人間」を描いた作品でもあります。ぜひ北村薫さんの優しいまなざしに触れてみて下さい。

(K.T.)
by terakoya21 | 2009-10-02 13:48 | I Love Books

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